English version none
1974年にS. HawkingさんがブラックホールのHawking輻射を提案すると同時に情報パラドックス問題を提起しました.2004年頃にこの問題は、おそらくAdS/CFT対応の提案に氏が同意されて、このことから、『賭けに破れた』としたように思われました。詳細部分はともかく、大筋では情報はブラックホールの事象の地平線に堆積していて、これがHawking輻射となるとの理解でよいと考えていました.ところが、2012年の8月頃に、ブラックホールのFirewallの問題が再び脚光を浴びていることを知りました.しかも、詳細ではなく根本的な問題を提起していると思われますので、記事にしました。
1、Hawkingの提起した情報パラドックス
1970年代初期に、ブラックホールの力学が熱力学に類似している(第一法則、第二法則、第三法則、宇宙検閲官仮説)ことが指摘され、この中からブラックホールのエントロピー公式が求められました。1976年にHawkingは、ブラックホールの蒸発するときに、ブラックホールが持っている大量な情報はどうなるのかという非常に重要な疑問を提起しました。[7]
2、ブラックホール相補性
主要にはHawkingさんとSusskindさんの間の論争として、ブラックホールの中に蓄えられた情報は決して出て来れないとする研究者と、ブラックホールの地平線にPlanck定数ほどのところに広がるメンブレーンに情報が堆積するとする理論との対立です。1993年にSusskindさんは論文を発表し、一言で言うと「ブラックホールの相補性」として、ブラックホールに落ち込む観察者は何も特別なことは観察できない(物理法則は何ら変化がない)が、外側の観察者からみると、ブラックホールへ落ち込む観察者は時間が極端に遅れ、広がった地平線に電荷のように堆積するように見えるというもので、このことは検証しえない(双方を同時に立証することができない)という理論です。([1]に初等的な説明があります。ただしSusskind著であるから、Susskindさんの立場)
他方、1997年にストリングの立場からAdS/CFT対応が提案されました。ホログラフィック原理が信憑性をもってきてます。
3、AdS/CFT対応と2004年のHawkingの宣言
おそらく、AdS/CFT対応の主張にHawkingさんが同意したのだと思うが、2004年にHawkingさんは誤りを認めました。[6]Hawking氏の議論も賛否両論があるのだが、宣言が早すぎたのではという専門家もいる。それは同時から、情報は失われる説の人々からは反対をしていましたし、情報は地平線(拡張された地平線)に堆積するという説の人からも反対が出ていました。
4、ブラックホールのFirewall説の意味
私は2012年の8月頃に、Polchinskiさんらが新しい議論が始まったことを知りました。Boussoさんの講演やAPMS論文をめぐる論争が始まったことを知っておりましたが、理解できずにそのままとしていました。この8月になってから、NatureやNewYorkTimesにこの話題が投稿され、読んでみると根源的な問いを発しているように感じられました。
Firewall仮説は、ブラックホール相補性のように、量子重力的である。ブラックホール相補性は(部分的には)一度充分に大きな量のHawking輻射を始めるとブラックホールの混合量子状態が遠くに輻射されたHawking輻射の状態と非常に大きなエンタングルメントとなるという予想から来きます。
この仮説の元となっている論文は、Winterbergさんの[8]で、ここでの主張は、量子重力の正しい理論はゼロ点真空エネルギーを無視しできない。ゼロ点真空エネルギーはPlanckエネルギーでカットオフされなければならないので、新しい座標系を作り出します。Lorentz不変性は高エネルギーで破れて、座標系を作り出します。そこではゼロ点エネルギーが残り、新しく作られた座標系では光の速度で事象の地平線に近づいたり、横切ったりしたとき、安定な平衡にある物質を保存する楕円型微分方程式が、平衡を持たない双曲型微分方程式へと変貌し、宇宙のガンマ線バスターで観測されているように、すべての物質が情報
を失ったり、ユニタリ性を失ったりすることなくガンマ線となる。という主張のようです。
このことを根拠として、2012年にAlmheiri, Marolf, Polchinski, とSullyの各氏[9]により、ブラックホールの相補性に中の不整合のように見えることへの解決として、Firewall仮説が提案されました。[9]この提案はしばしば"AMPS" firewallと言われ、2012年の論文の著者の頭文字をとっています。この主張はHawking氏のそれとは、大きくかけ離れています。大栗先生の文章を引用すると、『ブラックホールに近づいた観測者が、事象の地平線を通り越すときに何も特別なことが起きないとすると矛盾が起きる。それを避けるために、地平線のところが高温になっていて、観測者は焼き尽くされてしまうのではないか。地平線は防火壁なのではないか、というのです。』
また、このFirewallの主張はエンタングルメントエントロピーの仮説と一体化しています。
5、エンタングルメントエントロピーとの関係
Hawkingの提起した情報パラドックスの論争のときは、遷移行列の純粋性と混合性が問題(ユニタリ性)となったが、もう一つエンタングルメント(量子的もつれ)とそのエントロピーがある。
このエンタングルメントエントロピーのわかりやすい説明は、私のブログにずいぶん前にポストしていた、
『量子エンタングルメントをもった時空の構成』
というMark Van Raamsdonkさんの arxiv:1005.3035 の全訳を掲載しています.この主張が、Firewall仮説と同等の主張ということのようです.[10]
このあたりの話題が、この8月に[4][5]に掲載されています.
追記:しかし、量子エンタングルメントを考慮した上でも、Firewallパラドックスは誤っているのではというBraunsteinさんらの意見もあります.[11]
追記:次の参考資料(Scientific American December 21, 2012)も追加します.[12]
【参考文献】
[1]、『ブラックホール戦争』Susskind著、日本語訳あり
[2]、
大栗先生のブログ「ブラックホールの防火壁」2012年12月20日にわかりやすい説明があります。
[3]、Wikipediaの記事、"Firewall (physics)" "Black hole complementarity" "Black hole information paradox"
[4]、
Nature(ONLINE版)"Theoretical physics: The origins of space and time" Zeeya Merali署名の28 August 2013の記事
[5]、
NewYorkTimes(ONLINE版)"A Black Hole Mystery Wrapped in a Firewall Paradox" By DENNIS OVERBYE Published: August 12, 2013 の記事
[6]、S.Hawking
"Information Loss in Black Holes"
[7]、S.Hawking "Particle Creation by Black Holes" Commun. Math. Phys. 43 (3): 199-220.
[8]、Winterberg, Friedwardt (2001 Aug 29). "Gamma-Ray Bursters and Lorentzian Relativity". Z. Naturforsch 56a: 889–892.
[9]、A. Almheiri, D. Marolf, J. Polchinski, and J. Sully (2012). "Black Holes: Complementarity or Firewalls?," arXiv:1207.3123 [1]
[10] Mark Van Raamsdonk
"Building up spacetime with quantum entanglement"
[11]
"Curtains Down for the Black Hole Firewall Paradox: Making Gravity Safe for Einstein Again"
[12]
"Black Hole Firewalls Confound Theoretical Physicists"