2013年9月22日日曜日

第十一回目数理物理セミナ(飯高茂先生(元学習院大学教授)によるレクチャー)


2013年9月21日、第十一回目の数理物理セミナとして、タイトル『代数曲線の幾何学』のセミナを、講師として飯高茂先生をお招きして行いました.多くのトピックを交えながら、

・円錐曲線が代数幾何学の原点にあり、すべて(複素射影空間内の)直線に双有理同値となること
・代数多様体の双有理分類は種数から始まり、複素次元1(代数曲線)では種数と双有理同値分類が一致すること
・複素次元2(代数曲面)では、種数だけでは双有理分類を識別できないこと
などの話をされ、

・小平次元
・交点数の理論
・有理曲線とは
・代数曲線のd次曲線の例
・クレモナ変換の重要性
・ネーター公式
・加法公式(小平次元のファイバー空間における)
・極小モデル
・対数的微分形式
・最新の話題
を講義していただきました.

今回、講義ノートはありません.

日本語版Wikipediaの関連が非常に密接な記事を2つだけリンクを紹介します.

小平次元 (日本語)

双有理幾何学 (日本語)

2013年9月16日月曜日

ブラックホールのファイアウォールについて

English version none

1974年にS. HawkingさんがブラックホールのHawking輻射を提案すると同時に情報パラドックス問題を提起しました.2004年頃にこの問題は、おそらくAdS/CFT対応の提案に氏が同意されて、このことから、『賭けに破れた』としたように思われました。詳細部分はともかく、大筋では情報はブラックホールの事象の地平線に堆積していて、これがHawking輻射となるとの理解でよいと考えていました.ところが、2012年の8月頃に、ブラックホールのFirewallの問題が再び脚光を浴びていることを知りました.しかも、詳細ではなく根本的な問題を提起していると思われますので、記事にしました。

1、Hawkingの提起した情報パラドックス
1970年代初期に、ブラックホールの力学が熱力学に類似している(第一法則、第二法則、第三法則、宇宙検閲官仮説)ことが指摘され、この中からブラックホールのエントロピー公式が求められました。1976年にHawkingは、ブラックホールの蒸発するときに、ブラックホールが持っている大量な情報はどうなるのかという非常に重要な疑問を提起しました。[7]

2、ブラックホール相補性
主要にはHawkingさんとSusskindさんの間の論争として、ブラックホールの中に蓄えられた情報は決して出て来れないとする研究者と、ブラックホールの地平線にPlanck定数ほどのところに広がるメンブレーンに情報が堆積するとする理論との対立です。1993年にSusskindさんは論文を発表し、一言で言うと「ブラックホールの相補性」として、ブラックホールに落ち込む観察者は何も特別なことは観察できない(物理法則は何ら変化がない)が、外側の観察者からみると、ブラックホールへ落ち込む観察者は時間が極端に遅れ、広がった地平線に電荷のように堆積するように見えるというもので、このことは検証しえない(双方を同時に立証することができない)という理論です。([1]に初等的な説明があります。ただしSusskind著であるから、Susskindさんの立場)
他方、1997年にストリングの立場からAdS/CFT対応が提案されました。ホログラフィック原理が信憑性をもってきてます。

3、AdS/CFT対応と2004年のHawkingの宣言
おそらく、AdS/CFT対応の主張にHawkingさんが同意したのだと思うが、2004年にHawkingさんは誤りを認めました。[6]Hawking氏の議論も賛否両論があるのだが、宣言が早すぎたのではという専門家もいる。それは同時から、情報は失われる説の人々からは反対をしていましたし、情報は地平線(拡張された地平線)に堆積するという説の人からも反対が出ていました。

4、ブラックホールのFirewall説の意味
私は2012年の8月頃に、Polchinskiさんらが新しい議論が始まったことを知りました。Boussoさんの講演やAPMS論文をめぐる論争が始まったことを知っておりましたが、理解できずにそのままとしていました。この8月になってから、NatureやNewYorkTimesにこの話題が投稿され、読んでみると根源的な問いを発しているように感じられました。
Firewall仮説は、ブラックホール相補性のように、量子重力的である。ブラックホール相補性は(部分的には)一度充分に大きな量のHawking輻射を始めるとブラックホールの混合量子状態が遠くに輻射されたHawking輻射の状態と非常に大きなエンタングルメントとなるという予想から来きます。
この仮説の元となっている論文は、Winterbergさんの[8]で、ここでの主張は、量子重力の正しい理論はゼロ点真空エネルギーを無視しできない。ゼロ点真空エネルギーはPlanckエネルギーでカットオフされなければならないので、新しい座標系を作り出します。Lorentz不変性は高エネルギーで破れて、座標系を作り出します。そこではゼロ点エネルギーが残り、新しく作られた座標系では光の速度で事象の地平線に近づいたり、横切ったりしたとき、安定な平衡にある物質を保存する楕円型微分方程式が、平衡を持たない双曲型微分方程式へと変貌し、宇宙のガンマ線バスターで観測されているように、すべての物質が情報 を失ったり、ユニタリ性を失ったりすることなくガンマ線となる。という主張のようです。
このことを根拠として、2012年にAlmheiri, Marolf, Polchinski, とSullyの各氏[9]により、ブラックホールの相補性に中の不整合のように見えることへの解決として、Firewall仮説が提案されました。[9]この提案はしばしば"AMPS" firewallと言われ、2012年の論文の著者の頭文字をとっています。この主張はHawking氏のそれとは、大きくかけ離れています。大栗先生の文章を引用すると、『ブラックホールに近づいた観測者が、事象の地平線を通り越すときに何も特別なことが起きないとすると矛盾が起きる。それを避けるために、地平線のところが高温になっていて、観測者は焼き尽くされてしまうのではないか。地平線は防火壁なのではないか、というのです。』
また、このFirewallの主張はエンタングルメントエントロピーの仮説と一体化しています。

5、エンタングルメントエントロピーとの関係
Hawkingの提起した情報パラドックスの論争のときは、遷移行列の純粋性と混合性が問題(ユニタリ性)となったが、もう一つエンタングルメント(量子的もつれ)とそのエントロピーがある。
このエンタングルメントエントロピーのわかりやすい説明は、私のブログにずいぶん前にポストしていた、

『量子エンタングルメントをもった時空の構成』

というMark Van Raamsdonkさんの arxiv:1005.3035 の全訳を掲載しています.この主張が、Firewall仮説と同等の主張ということのようです.[10]

このあたりの話題が、この8月に[4][5]に掲載されています.

追記:しかし、量子エンタングルメントを考慮した上でも、Firewallパラドックスは誤っているのではというBraunsteinさんらの意見もあります.[11]

追記:次の参考資料(Scientific American December 21, 2012)も追加します.[12]

【参考文献】

[1]、『ブラックホール戦争』Susskind著、日本語訳あり

[2]、大栗先生のブログ「ブラックホールの防火壁」2012年12月20日にわかりやすい説明があります。

[3]、Wikipediaの記事、"Firewall (physics)" "Black hole complementarity" "Black hole information paradox"

[4]、Nature(ONLINE版)"Theoretical physics: The origins of space and time" Zeeya Merali署名の28 August 2013の記事

[5]、NewYorkTimes(ONLINE版)"A Black Hole Mystery Wrapped in a Firewall Paradox" By DENNIS OVERBYE Published: August 12, 2013 の記事

[6]、S.Hawking "Information Loss in Black Holes"

[7]、S.Hawking "Particle Creation by Black Holes" Commun. Math. Phys. 43 (3): 199-220.

[8]、Winterberg, Friedwardt (2001 Aug 29). "Gamma-Ray Bursters and Lorentzian Relativity". Z. Naturforsch 56a: 889–892.

[9]、A. Almheiri, D. Marolf, J. Polchinski, and J. Sully (2012). "Black Holes: Complementarity or Firewalls?," arXiv:1207.3123 [1]

[10] Mark Van Raamsdonk "Building up spacetime with quantum entanglement"

[11] "Curtains Down for the Black Hole Firewall Paradox: Making Gravity Safe for Einstein Again"

[12] "Black Hole Firewalls Confound Theoretical Physicists"

2013年9月14日土曜日

飯高茂先生(元学習院大学教授)によるレクチャーのご案内

放送大学在学の社会人を中心に数学、物理学の勉強をしています。通常はプライベートに勉強会を開いておりますが、今度、飯高茂先生にレクチャーして頂けることとなり、メンバーだけで聴くのも勿体なく、一般の関心ある方へもご案内することにしました。振るってご参加下さい。参加ご希望のかたは、下記の連絡先へ事前に連絡ください。

                -記-

  日時:     9月21日(土)  13時 ~ 17時
  場所:     放送大学

  レクチャー内容: 代数曲線の幾何学

    大学1~2年レベルの線形代数、微積分程度の予備知識を前提に誰にでも分るよう話を進めて下さることになっています。

  参加費: 無料です。ただし、資料がある場合、実費にて希望者へ配布します。

  連絡先: perspectives21-lec0921(アット)memoad.jp
    ((アット)は'@'に置き換えてください)

2013年9月8日日曜日

数理物理セミナ勉強会(9/8)

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数理物理セミナで、公式のセミナは内容が重すぎて、話し手も聞き手も負担が大きなことから、少し砕けた話題、標語的には「トピック的」「雑談風」に議論の場を設定しました.テキストは「数え上げ幾何学と弦理論」Seldan Katz著、清水先生の訳を使いました.私はこのテキストの最終目標である『数え上げ幾何学』の問題の代数幾何的側面から必須の内容である。
  ・古くからある円錐曲線や双対性の話題
  ・ミラー対称性
  ・種数の話題と代数多様体の分類問題
  ・Bezoutの定理、交点数
  ・数え上げ問題の起源
  ・Kontsevich-Maninの定式化
の話題を提供させていただきました.レジュメを以下に示します.他には、テキストの全体の紹介と、物理的側面から『局所化』の話題がありました.

準備した項目レジュメ: 代数幾何の面白さ(9/8勉強会)

2013年9月7日土曜日

英語版Wikipediaの『ミラー対称性 (弦理論)』『AdS/CFT対応』の内容の大幅な更新について

English version

Wikipedia英語版の『ミラー対称性 (弦理論)』という記事が9月にはいってから、内容が大幅に更新されています.観点がまったく『数学的』になっていて、記事としてまとまってはいると思うのであるが、以前の『物理的』観点からの『ミラー対称性 (弦理論)』の内容とは異なったものとなっている.

日本語版はすでに、この新しい記事を日本語化してあります.さらに、以前の『物理的』な観点からの記事は、『付記』として記事の最後に以前のままの記事を残してあります.ご覧いただければすぐにわかります.

10 Sep 2013 英語版note欄に、1st Aug 2013 version を復活させました。決して、今の英語版の記事が悪いと思っているわけでもないのであるが、物理的な視点が削除されていることが残念でそのようにした.ミラー対称性の考え方自体は、物理から来ているわけであるし、重要な考え方であるBatyrev-Borisov構成や、弦双対性の話題を削除してミラー対称性の流れは出てこないのではないだろうか.

14 Sep 2013 前の1st Aug 2013バージョンを、『付記』からノート欄へ移動しました.14日時点の英語版への更新分すべてを日本語版に反映しました.確かにまとまった記事になっています.

26 Oct 2013 『AdS/CFT対応』という記事も英語版が大幅な変更となりました.いくつか論争もあったようですが、現在は落ち着いたので、丸々日本語化しました

Mirror symmetry (string theory)(in English)

ミラー対称性 (弦理論)(日本語)

AdS/CFT correspondence(in English)

AdS/CFT対応(日本語)